イブキスズメ。
幼虫の食草はヤナギランやカワラマツバといった高山植物であり、成虫は昼行性で灯火に飛来しないことから、標高的にもレア度的にもトップクラスのスズメガです。
高貴で美しいことも相まって ”スズメガの女王” と呼ばれることもあるようです。

過去2年、車の都合で7月中旬頃に長野県のイブキスズメの産地に赴いていましたが、影すら見ることもなく、他の高原性の昆虫でお茶を濁してきました。

しかし今年、都合がついたのは8月上旬。
ネット上ではイブキスズメの目撃情報が多い時期です。

今年こそは……ッ!



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~8/3~
渋滞に巻き込まれ、現地到着は予定より大幅に遅れて11時半頃。
昼行性の虫を狙う時間帯としては午前中ギリギリ、お腹的にはもう少しでランチタイム。
微妙な時間帯だ……。

とりあえず、イブキスズメが吸蜜しそうなアザミの花や産卵場所になるであろうヤナギランの群落を探して歩きます。

少しすると、ヤナギランに覆われた区画を発見。
群落上空を眺めますが、飛んでいるスズメガは見当たりません。
ならば幼虫でもおらんかのぅ…とヤナギランをかき分け見ていくと……

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イブキスズメ幼虫

意外とあっさり見つかりました。
ほんとにいるんだぁ……と、まずは王女様との謁見に感動。

写真を撮らせていただいた後、失礼ながらお触りさせて頂きました。


う~ん。。。ふにふに……♡


イモムシって気持ちいいですよね。
スズメガのトレードマーク・尾角は、他のスズメガよりも固い感触を受けました。


まだ他にもいるかなぁ~?
辺りを探してみると、

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程よい頻度で中齢幼虫をポツポツと見つけることができました。
成虫と比べ、幼虫は見つけやすいという風に聞いていましたが、本当のようです。

他のスズメガにも見られるように、緑色型と黒色型に大別できますが、その中間のような色合いのものもあり、幼虫の個体変異の多様さが感じられます。

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こちらは黒色型の比較的若齢の幼虫。かわいい。

そこそこ大きくなった幼虫ばかりで、もう成虫は終わっているのでは……?と思いましたが、若齢のものもいるのでまだ息の長い個体が飛んでいるかも、とアザミやヤナギランの花を見ていきますが、飛んでくるのはチョウとハナアブとマルハナバチばかり。

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ミドリヒョウモン

お腹もすいてきたので昼食休憩をはさみ、少し離れた別のポイントに移動。

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コチャバネセセリ

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サカハチチョウ

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アサギマダラ


このポイントは、7月中旬にくるとヒョウモン系のチョウが乱舞する林道なのですが、今回はあまりヒョウモン系は多くなく、アサギマダラが多く目につきました。

アサギマダラは大きいし素敵な色だし文句なしですよね……ちょっと臭いけど笑

目に付く花をぼーっと見回りながら歩き回っていましたが、イブキスズメの飛来は無し。
ここにも一部ヤナギランがまとまって生えている場所があるので幼虫を探してみましたが、こっちでは見つかりませんでした。

こっちにもいないことはないと思うのですが……。

朝からの運転の疲れが出てきたので、あまり深追いはせず、夕方は昼寝や温泉などを堪能し、しばし休憩……。

日が暮れてきた辺りで、ライトトラップをしに再び林道へ。

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19:30頃点灯。いつも通りHIDハンディライト+蛍光灯ランタンの組み合わせ。
このポイントは林道には灯りが全くないので、この程度の装備でも虫の集まりはかなり期待できるのですが、今回は照らす予定の山肌が霧に覆われて見えていなかったので不安……。

とりあえず、しばらく放置して様子見。


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約1時間後の様子。


うん。問題ないね。


霧がかかっていたのは最初だけで、すぐに晴れたようでした。
こうしてみると、やはり普通の蛍光灯よりもケミカルライトの方が虫のキープ力が高いことが見て取れます。

集まりすぎて顔に虫が激突して痛いのですが、気になる虫をチェックしていきます。

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ジョウザンヒトリ

このポイントではお馴染みの大型蛾。
7月に来ると綺麗な個体が多いのですが、今回はさすがに擦れた個体ばかりでした。

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オニベニシタバ

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ハイモンキシタバ


みんな大好きカトカラ2種。
オニベニさんは後翅を見せることなく虚空へ消えてしまいました……。
ハイモンさんは綺麗な個体が複数飛来しました。

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アミメリンガ

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ベニモンアオリンガ

みんな大好き(?)美麗リンガ2種。
見慣れた虫だけどいるだけでうれしい。

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シロシタオビエダシャク

山地性のエダシャク。初見だったのですが、地味ながら上品でカッコイイ蛾ですね。

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ナカスジシャチホコ

こちらも実に上品。
グラデーションのかかった白帯の真ん中にキリッと入る赤褐色の紋が良いアクセントになっています。
シャチホコガはあまり心打たれることが少ないのですが、この子には一目惚れしてしまいました。

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ウスイロギンモンシャチホコ

ギンモンスズメモドキのミニチュア版といった感じ。

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キシタギンウワバ

昼間、花で吸蜜しているのを見かけることも多い高原性のギンウワバ。
後翅は見せてくれませんでした。

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オオヒサゴキンウワバ

この日、(物理的に)最も輝いていた蛾。
この黄金の輝きは文句なしの美しさですね。


11時半ごろにHIDのバッテリーが切れたので撤収し就寝しました。

Zzz...



~8/4~
イブキスズメの成虫を見るべく、9時ごろに活動開始。
とはいえ、ポイントが絞れないので、結局、きのう幼虫を見つけたヤナギラン群落へ。
ヤナギランはもちろん、アザミもぽつぽつと咲いていて吸蜜に訪れてくれるかもしれないし、何より幼虫がいるということはここに産卵しに来るという証。

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ベニヒカゲ


異動する道中では、ベニヒカゲを発見。
生息していることは知っており、今回は時期がちょうど発生期と一致しているので密かに期待していました。
長野県では天然記念物に指定され採集することはできません。
漆黒の翅に鮮烈に燃えるオレンジの紋は、まるで宇宙を漂う星雲を思わせます。
美しいなぁ……。

ベニヒカゲを堪能し、別れを告げ、本命のイブキ女王様に合うべくヤナギラン群落に突入。

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ほんとにヤナギランだらけです。
幼虫を探しつつ、花をチェックしてひたすら歩き回りました。

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ヒメキマダラセセリ

かわいい。

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クジャクチョウ

安定の美しさ。

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コヒョウモンモドキ♀

時期的に今年は見られないかな?と思っていたのですが、まだいました。
メスは黒化度合いが強いので、きめ細かいまだら模様のコントラストがよりハッキリして見えます。
やはり発生は終わりかけのようで、今回見たのはこの1頭のみでした。


花には魅力的な蝶たちは来ているものの、イブキ様は全く姿を見せません。
一方で、幼虫お嬢様はかなりの頻度で発見することができました。

しばし、ヤナギラン王国の王女様たちの個体変異をお楽しみください。

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かわいい若齢幼虫たち。

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中齢幼虫たち。個体数としては最も多かったです。
変異の豊富さという点では、黒化の度合いが個々で異なっていて、バリエーションがピークを迎える頃と言えそうです。

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終齢幼虫も数頭確認できました。
終齢になると、幼虫は全て黒くなり、頭蓋と尾角が赤く染まります。
テカテカ黒光りしているし、黄色の円紋は大きいし、頭としっぽは赤いしで、異形感がかなり強いです。

全然おいしそうに見えないので、そういう意味では捕食者対策になっているのかも?

中齢幼虫に比べると体色変異の幅は小さくなるように感じますが、よく見ると、真っ黒なものと茶色っぽくなるもの、気門周辺に小さな斑紋群がでるものとでないものがあるようです。

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ここまでくるともはや怪獣の類です。
成虫とのギャップがすごい……。

でも、葉っぱをひたすらムシャムシャ食べる様子はやっぱりイモムシ共通のかわいさでした。
ちなみに、イブキいもはアゲハやヤママユの幼虫と比べると咀嚼は小刻みですが、ものすごいスピードで顎を動かして葉にかじりついていました。


12時頃まで探索を続けましたが、幼虫ばかりで成虫を見ることは叶わずタイムアップ。
残念ですが、渋滞を避けるため早めの帰路に着きました。



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8月上旬ならイブキ成虫を観察できると思っていたのですが、結果は不発……。
若齢幼虫もいたとはいえ、初齢といえるような幼虫はいませんでしたし、中齢幼虫が多く、終齢も見られたことから、成虫を見るならもう少し時期を早くしたほうが良いのかもしれません。

花から花へと飛び交う女王の姿、ぜひとも見てみたいものです……。

ただ、幼虫とはいえイブキスズメに会うことはでき、変異を堪能することはできました。
ライトトラップも盛況だったので、総合的にはかなり良い採集になったと思います。


スズメガの女王……来年以降もチャレンジしたいと思います!


それではっ!